アートブック専門のディストリビューター「twelvebooks」


4月にオープンした〈Armor-lux〉中目黒店の一角では、アートブック専門のディストリビューター「twelvebooks」によるキュレーション・スペースがあり、〈Armor-lux〉らしいライフスタイルに寄り添ったアートブックが並びます。今回、ショップでも人気のあるスペイン発のインテリア雑誌『apartamento』最新号の発売に合わせて、「twelvebooks」代表・濱中敦史さんに、海外のアートブックを日本に紹介することになったきっかけや〈Armor-lux〉で展開するアートブックについて話を伺いました。


twelvebooks

2010年に東京を拠点に設立されたアートブック専門のディストリビューター。ヨーロッパを中心に海外出版社の国内総合代理店として書籍の流通やプロモーションに加え、関連作家の展覧会企画や来日イベントなど数多くのプロジェクトを手掛けている。

twelvebooksの濱中敦史さん

twelvebooksの濱中敦史さん



ファッションを志、パリへ



もともとはファッション業界志望で、大学時代はデザイナーズ・ブランドを扱うセレクトショップでインターンをしていました。そこではオーナー宛に届くコレクションの招待状を譲ってもらい、自費で4シーズンほどパリコレを見に行ったりもしました。それでファッションの都にハマり、大学卒業後はパリに渡ろうと決めました。当時はスタイリストやファション・エディターになりたいと考えていたのですが、好きな雑誌が『VOGUE Paris』や『purple』、『SELF SERVICE』とすべてフランスの雑誌だったこともきっかけでした。


2007年にパリに留学し、着いて早々に編集部に向かいましたが語学力が足りず、門前払いに。それでも日本で培ったツテで、様々なファッション誌の撮影を手伝ったり、当時、イギリスの雑誌『Dazed & Confused』でファッション・ディレクターをしていたニコラ・フォルケミッティの仕事を手伝わせて頂く機会に恵まれ、世界最先端の現場を目の当たりにすることができました。そこで彼のクリエイティブに触れ、刺激的な体験となったのと同時に、自分自身がこのレベルまで到達出来るのかと現実的にも考えるきっかけにもなり、結果的にファッションの道を早々に諦めることになりました。

偶然の出会いからアートブックの道へ



パリには2年間いたのですが、ニコラの元での仕事が終わり、帰国までは残り3ヶ月ほどでした。それまで持っていたモードな服はすべて手放し、部屋に残されたのは雑誌や雑誌を見て興味を持ったアーティスト、例えばユルゲン・テラーやマーク・ボスウィックなどの作品集でした。ほかにもブランドのショッピングバッグや下げ札などをコレクションしていたり、展覧会のチラシなども溜め込んでいたので、自分は本や紙モノが好きだということに改めて気がつき、帰国までは本屋に通い、ファッション以外のジャンルにも目を通すようになりました。当時はZINEが流行っていたので安いものを買い込んでいましたね。

その頃にパリ在住の日本人のコミュニティで、雑誌のバックナンバーを大量に売るという書き込みがあり、気になったので訪ねたのですが、それが『purple』のデザインを手掛けていたこともあるアートディレクターの大類信さんでした。本当に偶然の出会いで、それからは大類さんに雑誌の話を聞きたくて、帰国までワインとバゲットを持ってたくさん通わせてもらいました。 本に関わる仕事を考えているという話をする中で、大類さんからは好きなアーティストと仕事がしたいなら、自分で本を作るよりもディストリビューションの方がリスクは少ないのでは、と教えてもらいました。予算に合わせて出版社から好きなアーティストの本を好きなだけ扱わせてもらえばいい、というわけです。それは自分にも合いそうだ思って、帰国後に自分が持っていた好きなアートブックの中から、日本の書店では扱いがなさそうな海外の出版社にコンタクトをとり始めました。

twelvebooksの「12」の意味


2009年12月に帰国し、屋号に悩み、「twelvebooks」と決まったのが2010年3月でした。ディストリビューターとして、自分の好きな本を、できるだけ多くの人に届けたいですし、共感の輪を広げたい。そんなイメージの屋号を思い浮かべつつ、『purple』のようにみんなが知っている言葉にしようと考えていました。それである古書店で片端から本を開いて文字を探していると、目に留まったのがtwelveでした。意味を調べると、12個のまとまりを1ダースと言いますが、それは2、3、4、6と割り切れる数字が多く、誰かとシェアする時に平等に分けられるという説があり、好きな本をシェアするという自分のイメージに近いと感じたんです。その反面、割り切れない数字もあるということは、共感してもらえない人もいるだろうし、それを受け入れるという現実的なこともtwelveという数字からイメージできました。



店内に並ぶアートブック。手前側がパリの書店「イヴォン・ランベール」に関連するコーナーで、奥側がインテリア雑誌『apartamento』に関連するコーナー。

店内奥のスペースには、「イヴォン・ランベール」にゆかりのあるアメリカ人アーティスト、サイ・トゥオンブリーのポスターも展示、販売中。

〈Armor-lux〉での本のキュレーション



手探りで始めたディストリビューションも今年で12年を迎えられました。今は世界50社ほどの出版社と取引して、写真集やアートブックを日本に流通させています。〈Armor-lux〉に置いている本は2つのカテゴリーがあり、1つはパリの書店「イヴォン・ランベール」が出している本やその界隈のアーティストの本。もう1つがインテリア雑誌『apartamento』と彼らが出している書籍です。 「イヴォン・ランベール」は留学時に足繁く通った書店で、かつてはギャラリー併設の書店だったのですが、残念ながらギャラリーは閉じてしまい、今は書店のみが運営されています。ファッションからカルチャーまで世界中からいい本を集めていて、パリに来たアート関係者などは必ずチェックするようなお店です。ディレクターのブルーノが好きなテイストでもある温かみのあるイラストやドローイング集を〈Armor-lux〉では選んでいます。

6月10日から展開される『apartamento』最新号。鮮やかなピンクのインテリアが目を引く表紙は、アメリカ人アーティスト/陶芸家のアリス・マックラー。


インテリア雑誌の『apartamento』は2008年から年2回発行されています。世界各地のクリエイターの部屋を紹介していて、部屋の紹介を通じてその人を丸裸にするようなパーソナルな視点が魅力的で、日本人では過去に横尾忠則さんの家なども紹介されています。コロナ禍になる前に出版社のリサーチでドイツを訪れた時、友人とカフェにいると隣に座ったのが編集長のマルコでした。彼とは東京で出会っていて知り合いだったので、思わず「マルコじゃん!」と声がでましたね。新しい取引先をリサーチしに来ていると伝えると、時間はあるかと尋ねられ、翌朝再び会うことに。ただ、当時twelvebooksでは雑誌を扱わないと決めていたので、『apartamento』の話だったら断るつもりでしたが、彼が持ってきたのは照明デザイナー/アーティストのマイケル・アナスタシアデスの作品集で、雑誌から派生してアートブックを出していくという話でした。僕も好きなデザイナーだったこともあり、まずはアートブックの取引をスタートさせたんです。そして、1年ほど前から雑誌のディストリビューションもしています。

『apartamento』が出版するアートブック。(左)アメリカとフランスを拠点に活動するフォトグラファー、ドミニク・ナバコフの作品集『BERLIN LIVING ROOMS by Dominique Nabokov』。(右)6月の新刊、ポートレートアーティスト、ラリー・スタントンの作品集『THINK OF ME WHEN IT THUNDERS by Larry Stanton』。



〈Armor-lux〉の店頭では6月10日から『apartamento』の最新号となる2022年春夏号が並びます。誌面に載っている人はそれぞれ個性があって、時代に左右されない人。マネはできないけれど、自分のスタイルを考えるきっかけになる雑誌だと思います。また、新刊のアートブックも並びます。日本ではあまりきちんと紹介されたことがないと思うのですが、ラリー・スタントンという画家の作品集です。デイヴィッド・ホックニーと親しい作家で、夭折しているのですが、ホックニーとの関係性やそこからにじみ出る作風はとても素敵です。 「イヴォン・ランベール」周辺と『apartamento』は、今後さまざまなライフスタイルを発信していくこのお店の常設的なコンテンツとして、洋服を楽しみながら、一緒に楽しんでもらえるようになるといいと思っています。どちらも気軽に手に取れる本ですので、ここでコーヒーを飲みながらでもページをめくってほしいですね。〈Armor lux〉のカットソーが日常に寄り添うように、ライフスタイルになじむようなアートブックを今後も並べていく予定です。

SKWAT/twelvebooks

107-0062 東京都港区南青山 5-3-2 2F
お問い合わせ contact@twelve-books.com

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